近年、「あごが痛い」「口が開かないから、食事ができない」「顎関節周辺がしびれる」などの悩みを持つ20〜30歳代の若い世代の女性が増えています。
みなさんは、長時間の会話や硬いものを食べる時に、顎が痛くなったり、下顎のあたりがだるくなったり疲れてきたことはありませんか?これらは軽度の「顎関節症」の症状です。
今回は国民病の一つとも言われる「顎関節症」についてご紹介します。
目次
顎関節症とは?
顎(あご)は微妙に入り組んだ形と複雑な機能をもっています。筋肉と関節と神経が集中し、下の顎をささえています。食事をしたり、おしゃべりをすると連動して動いています。この顎の関節や顎の筋肉(咀嚼に関わる筋肉)が何かの原因で痛みや動きにくくなるのが顎関節症です。
顎関節症は、障害が起きている場所によって、大きく4つの型に分けられます。
- 筋肉の障害
- 関節周囲の組織の障害
- 関節の骨の変形
- 関節円板(かんせつえんばん)の障害
この中で、4つ目の関節円板の障害が最も多くみられます。関節円板というのは、上顎の骨と下顎の骨の間にあるクッションのような組織のことで、この関節円板が通常の位置からずれてしまうことで障害が起こり、顎関節の動きの制限や痛みを発症します。
顎関節症は国民病の一つ
顎関節症は決して珍しい病気ではなく、日本顎関節学会によると国内患者数は1900万人とされ、一生のうちに50%以上の方が顎関節症を経験すると考えられています。ある調査によると顎関節症による痛みが出ていない潜在患者を含めて11歳頃から上昇し、16〜20歳と31歳〜35歳に発症のピークがあるという統計結果も出ています。
また、男女比では女性に多く、特に20代~30代の若い世代に多いことがわかっています。女性が多い理由として様々な要因がありますが、女性の方が筋肉の緊張やストレスに対して感受性が高く、痛みに敏感で健康に対する関心が高い、男性よりも骨格や靱帯が弱い、女性ホルモンに関係があるなどの説があります。
顎関節症の原因は一つではない
顎関節症の原因は、主に次のようなものが挙げられます。
- 歯ぎしり・くいしばり
- 悪い歯並び・噛み合わせ
- ストレス
- 外傷
- 顎関節の弱体化・・・など
顎関節症を引き起こす要因は様々ですが、様々な要因が密接に絡まりあって起こっていると考えられています。中でも、ストレスは主要な原因と考えられています。ストレスによって無意識にブラキシズムと呼ばれる食いしばりや噛みしめが起こる事によって顎関節へ負担が常にかかってしまうため、顎関節症になるリスクは高くなります。
歯ぎしりについては、以前に意外と自覚していない!?「歯ぎしり」が及ぼす7つの悪影響にてご紹介していますので、よければチェックしてみてください。
顎関節症の3大症状
顎関節症の初期は痛みや違和感を感じても一時的で、しばらくすると症状が自然と改善することがほとんどですが、中には顎関節症の発見が遅れてしまい症状が悪化してしまうこともあります。
顎関節症には主に次のような症状があります。
●口を開けにくい(開口障害・運動異常)
●口を開けようとすると音がする(顎関節雑音)
●口を開けようとすると痛い(顎関節痛・咀嚼筋痛)
以上は顎関節症の3大症状と呼ばれ、単発で起こることもあれば、複数の症状が同時に起こることもあり、その場合には、より顎関節症の疑いがさらに強くなります。また、このほかにも頭痛やめまい、耳鳴りなどの症状を感じる人もいます。
顎関節症は「歯科・口腔外科」で治療可能
顎関節症は何科で診てもらうべきなのか、悩まれる方も多いです。顎関節症は、口の中や顎の関節の周りの組織が原因になっており、顎関節症は、歯科・口腔外科で主に治療を行います。症状が改善しない場合や、痛みや口が開けにくいなどで日常生活に支障が出ている場合には、早めの受診をおすすめします。
顎関節症の主な治療法
現在、顎関節症は治療法の実績・証拠が乏しいため効果の高い治療方法が明確となっていません。そのため治療方法は、歯科医院によって異なる場合があります。また、患者さんの症状によっても、行われる治療方法は異なりますが、主な治療には、次のような方法があります。
●スプリント療法
スプリント療法とは、マウスピースを使用した方法です。関節円板のずれなどがあり、痛みなどを伴う場合は就寝時にマウスピースを装着して、顎関節をリラックスさせた状態にします。昼間はマウスピースを装着する必要がないため、日常生活への影響は少ないです。
●薬物療法
顎関節の構造に異常がない場合は、消炎鎮痛剤などによる薬物療法が主となります。また、筋肉の緊張が強い場合にも薬を用いたりします。服用している薬がある場合には、医師に伝える必要があります。
●理学療法
電気を流したり、マッサージなどで顎周辺の筋肉の緊張を改善します。筋肉をほぐすことで血流を改善し、痛みを軽減します。
●運動療法(リハビリ)
ずれてしまった関節円板を元に戻すような運動を行ったり、顎周りの筋肉のストレッチを行い、口を開けられる量を増やしたりします。顎の症状により運動方法が異なります。
●心身医学療法
顎関節症の症状と心理社会的要因との関連を明らかにするとともに、患者さんに対して心身両面から治療することにより、症状の改善を根本的に図っていきます。
顎関節症治療の注意点
顎関節症は再発しやすい
顎関節症は、治療によって症状を改善できますが、一度症状が改善しても、再発するケースが多いです。顎関節症の原因に、食いしばり・噛みしめがありますが、これらはストレスが大きく関係し、ストレスを溜めるような生活を送っていては、再発リスクを高めます。再発リスクを防ぐためにも顎関節症の症状を改善するだけでなく、その根本原因の改善が必要です。
インプラント治療は顎関節症の改善が先決
インプラント治療は、顎関節症を考慮して行う必要があり、インプラント治療の前に顎関節症の改善が先決です。「口を開けにくい」といった症状が残ったままインプラント治療を行ってしまうと、顎関節症の症状が悪化する場合があります。また、インプラント治療を行う医院と顎関節症治療を行う医院が異なる場合には、顎関節症の状態について、担当医師に知らせる必要があります。
まとめ
顎関節症は、決して珍しい病気ではなく一生の間に50%程度の人が一度は経験すると言われている国民的疾患です。顎関節症の原因は、歯ぎしり・食いしばりなどの噛み合わせに関する癖、顎関節の弱体化、精神的なストレスなど、多岐にわたります。
顎関節症の治療を行う場合は、口の中や顎の関節の周りの組織が原因になっており、顎関節症は、歯科・口腔外科で主に治療を行います。顎関節症かなと感じたり、お口の違和感を感じた場合は一度受診をすることをおすすめます。
気になるお口の状態があればいつでもご相談ください^^
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記事監修 Dr.多賀 俊仁
多賀歯科医院
院長 多賀 俊仁