1本でもダメ!抜けた歯をそのままにするリスク

歯が抜けてしまった時「1本くらいなら歯が抜けても平気」「奥歯で見えない場所だからそのままにしておこう」などとそのままにしている方はいませんか?

歯が抜けた部分を治療せず放置することは、残っている健康な歯にも悪影響を及ぼすので将来的に多くの歯を失うリスクを高めてしまいます。

今回は、歯を抜けたままにしておくリスクについてお話しします。

歯には1本1本役割がある

歯には1本1本に役割があり、それぞれの機能を果たすことで全体が機能するようになっています。そのため1本でも無くなったままにしておくと全体の口腔機能のバランスが崩れてしまいます。例えば大臼歯(奥歯)が1本なくなっただけで、物をかみくだく力は約40%も低下するといわれています。さらに、歯の抜けた数が多くなると野菜や肉類等が食べにくくなるため、食物繊維やビタミン、鉄の摂取量が低下するとも言われています。

【それぞれの歯の主な役割】

  • 中切歯(ちゅうせっし):食べ物を噛み切る
  • 側切歯(そくせっし):食べ物を切り、ちぎる役割を助ける
  • 犬歯(けんし):糸切り歯とも呼ばれ、噛み切った食べ物を小さくする
  • 小臼歯(しょうきゅうし):尖った突起があり、食べ物を細かく砕く
  • 大臼歯(だいきゅうし):食べ物を最終的に細かく砕くのに重要になる

噛み砕くだけじゃない歯の役割

歯には、食べ物を細かく噛み砕いて消化しやすくする役割はもちろん、他にも「発音を助ける」「表情を作る」「体の姿勢やバランスを保つ」「ものを噛むことで脳に刺激を与える」などの役割もあります。例えば上の前歯が抜けるとサ行、奥歯が抜けるとハ行、ラ行が発音しにくくなって、言葉が不明瞭になったり、顔の輪郭が変わって、表情が老けて見えたりします。

歯を失う2大原因は虫歯と歯周病

歯が抜けてしまう二大原因は、虫歯と歯周病です。奥歯が先に失われるケースが多く、若年層の場合はほとんど虫歯が原因です。歯が失われて残りの歯が少なくなると、虫歯ではなく歯周病によって歯を失くすようになります。

  1. 虫歯(むしば): 虫歯は、歯のエナメル質を破壊する細菌によって引き起こされます。この細菌は、食べ物からの糖分をエネルギー源として使い、酸を生成します。この酸が歯を徐々に侵食し、最終的には歯の内部構造まで到達してしまうことがあります。
  2. 歯周病(ししゅうびょう): 歯周病は、歯を支える組織に影響を与える病気です。プラークとその中の細菌が歯肉に炎症を引き起こすことで始まり、進行すると歯肉と歯を支える骨を破壊します。最悪の場合、歯が抜け落ちることになります。

歯を抜けたままにするリスク

たとえ1本でも歯がない状態が長期間続くと、下記のような様々な問題を引き起こす可能性が高くなります。目立たないからといって放置せず、できるだけ早く治療を受けて歯を修復することが重要です。

1. 隣り合う歯の歯並びが悪くなる

口の中で並んでいる歯は、隣同士がお互いに支え合い、噛む力を分散させて歯並びを保っています。歯が抜けたままにしていると、支えがなくなり歯が抜けたスペースに周辺の歯が傾いたりして歯並びが悪くなります。それにより、噛み合わせのバランスが崩れるため、食べ物を噛む際に不快感を感じるようになる場合があります。

2. 歯が伸びる

食べ物を噛んだ時や歯を食いしばったときなど、上下の歯同士もお互いに干渉しています。抜けた歯とかみ合わさっていた歯が、今まであった歯にかみ合わせようとして、伸び出てしまう可能性があります。歯がない期間が長ければ長いほど、歯並びや噛み合わせが悪化するため、その後の治療も難易度が高くなります。

3. 顎関節症のリスクが高まる

歯が抜けたままの状態が長く続くと、歯並びとともに噛み合わせにも不具合が起こるようになります。噛み合わせが悪いと、歯だけでなく顎にも過剰な負担がかかり、顎関節症を発症する恐れがあります。顎関節症になるとカクカクと音が鳴る、口の開閉が困難になるなど、日常生活に支障をきたす症状が現れます。

※顎関節症(がくかんせつしょう)とは、あごが痛くなり口を開くことができなくなったり、あごを動かすと変な音がしたりするなどの症状が出る病気の総称です。

4. 歯周病のリスク増加

歯が抜けた隙間は、食べ物のカスが溜まりやすい場所となります。適切なケアが行われない場合、抜けた部分の周辺では、歯周病が進行しやすくなります。歯周病は、残っている歯にも悪影響を及ぼすため、全体的な口内健康を損なう原因となります。

5. 摂食障害と栄養不足

歯が抜けると、硬い食べ物や粘り気のある食べ物を噛むことが難しくなります。これが原因で、食事の選択肢が限られ、必要な栄養素を十分に摂取できなくなることがあります。

6. 滑舌・発音が悪くなる

歯が抜けたままの状態では、歯が抜けた部分から息が漏れることによって、はっきりとした発音が難しくなり、滑舌も悪くなってしまいます。日常会話に支障が生じることで、コミュニケーションに自信が持てなくなる恐れがあります。

抜けた歯を補う方法

もし歯が抜けてしまったら、早めに歯科医院を受診して口の状態をチェックしてもらい、歯を補うための治療方法を検討する必要があります。歯を失った際の主な治療法として挙げられるのが、「入れ歯」「ブリッジ」「インプラント」です。

◉入れ歯

入れ歯は、主に総入れ歯と部分入れ歯の2種類があります。総入れ歯は、すべての自然な歯が失われた場合に使用される方法で、部分入れ歯は、部分的に失ってしまった歯を補う方法です。部分入れ歯は、残っている自然な歯に固定するクリップや金具を使用して支えられます。入れ歯は、健康な歯を削ることなく治療も短期間で行うことができますが、部分入れ歯は天然歯と比べて噛む力は30~40%、総入れ歯では約10~20%と非常に弱く、しっかり噛みにくいことが最大の弱点です。

【特徴】

  • 健康な歯を削る必要がない
  • ほとんどの歯科医院で対応できる
  • 咀嚼力が低い
  • 審美性に劣る

◉ブリッジ

ブリッジは、欠損した歯の両隣の歯を土台として人工歯を補う治療法です。ブリッジの長所は取り外しがないため、違和感が少なく、 治療自体はシンプルである事です。しかし、治療の際には周囲の健康な歯を大きく削る必要があります。

【特徴】

  • 治療期間が比較的短い
  • 異物感が少なく比較的咀嚼力が高い
  • 健康な歯を削る必要がある
  • 両隣に歯がないと装着できない

◉インプラント

インプラントは、顎の骨にチタン金属でできた小さな人工歯根を埋入し、その上に人工歯を装着する治療法です。入れ歯・ブリッジとは異なり保険適用外で治療費が高額になることや外科手術が必要となりますが、周囲の健康な歯に影響せず、天然の歯と変わらない見た目と機能性を取り戻すことが可能です。

【特徴】

  • 見た目が天然歯とあまり変わらない
  • 健康な歯と同じようにものを噛める
  • 治療費用が高額となる
  • 持病や体力により治療できないことがある

歯が抜けた時に補う方法は、それぞれにメリットデメリットがあります。歯科医院では、お口の状態に合わせて最善の方法を提案することができます。歯が抜けた時はそのまま放置せずに一度かかりつけ医にご相談してみてください。

まとめ

歯は1本でも抜けた状態で放置してしまうと、歯全体のバランスが乱れ、歯並びに影響が出たり発音が悪くなるなど様々な影響を及ぼします。たった「1本」だからといって、そのまま放置せずに早めに歯科医院で診てもらいましょう。

抜けた歯を補う方法は入れ歯、ブリッジ、インプラントの3つの選択肢があります。かかりつけの歯科医師と相談して自分に最適な解決策を見つけましょう。早めの対策を行うことが今ある健康な歯を守ることにつながります。1本でも多く自分の歯を残して、健康に維持していきましょう。

記事監修 Dr.多賀 俊仁
多賀歯科医院
院長 多賀 俊仁

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