これまで歯周病のリスクファクターとして喫煙、糖尿病、歯並びとご紹介してきましたが、今回は、女性ホルモンについてご紹介します。
歯周病はお口の中の細菌によって歯ぐきに炎症を引き起こし、やがては歯を支える骨を溶かしていく怖い病気です。実は、歯周病は男性よりも女性の方がなりやすく、その原因として女性ホルモンが大きく関係していると言われています。
歯周病については「歯周病は再発しやすいお口の病気」で紹介しているので、よろしければこちらもご覧ください。
目次
女性ホルモンと歯周病の関係
歯周病の原因菌の中には、女性ホルモンを特に好んで繁殖する種類があります。女性ホルモンには、歯周病菌の増殖を促したり、歯周組織の炎症を悪化させたりする作用があり、月経前には歯肉がむずむずしたり、腫れたりする事があります。これは女性ホルモンの増加にともない、毛細血管に影響が出て炎症反応が過度になるからです。
男性より女性の方が歯周病になりやすい
歯周病になる一つの原因として女性特有のホルモンバランスが大きく関係しており、女性ホルモンが増減しやすい女性の方が歯周病になりやすいと言われています。また、女性は唾液が少ない方が多く、口の中が酸性に傾くのを防ぐ働きが男性よりも弱いため、口の中の環境が悪化しやすいと言われています。
思春期に起こる「思春期性歯肉炎」に注意
女性の場合、女性ホルモンの分泌はライフステージによって変化します。ホルモンバランスが大きく変化するために歯周病になりやすい時期がいくつか訪れます。それは思春期と妊娠・出産、そして更年期の大きく3つです。この中で思春期に起こる歯周病を「思春期性歯肉炎」といいます。今回は、「思春期性歯肉炎」についてご紹介します。
思春期性歯肉炎とは
思春期性歯肉炎とは、小学生高学年や中学生に見られ、歯ぐきが腫れたり、歯みがきによる刺激で歯ぐきから出血したりする歯周病です。発症の頻度では思春期の子供のおよそ20%に見られるという報告もあります。女性ホルモンの影響を受けやすく、思春期性歯肉炎も男子より女子に起こりやすい傾向がみられます。
思春期性歯肉炎の原因
●ホルモンバランスの変化
思春期性歯肉炎に関連するのが、女性ホルモンと言われています。歯周病菌は数百種類が存在しますが、P.intermedia(プレボテラ・インターメディア)という歯周病菌は女性ホルモンを栄養源として繁殖します。思春期の女性ホルモン増加に伴い活動性を増し、思春期性歯肉炎を起こす可能性が考えられています。
●生活習慣の乱れ
小学生や中学生などの思春期になると塾で帰宅が遅くなったり、クラブ活動で忙しくなったりするなど生活習慣も変化します。歯垢(プラーク)を形成しやすいファストフードやお菓子を食べる頻度も増えますが、外出先では歯磨きができる機会が限られます。このような食生活や生活習慣の変化も、思春期性歯肉炎のリスクファクターとなります。
思春期性歯肉炎の症状
思春期性歯肉炎の症状は、普通の歯肉炎と同じく、歯ぐきの腫れや歯みがきの時の出血です。ひどくなると、口臭やお口の中のネバつきなどの違和感も感じるようになります。一般的な歯肉炎の場合は、歯磨きができていないことが多いのですが、思春期性歯肉炎の場合はきちんと歯を磨けていても起こることがあります。
歯ぐきが腫れてるだけと思って放置すると・・・
思春期性歯肉炎は、侵襲性歯周炎という強い歯周病症状を引き起こすリスクファクターとなります。侵襲性歯周炎は、若い年齢(早ければ11〜13歳ごろ)から発症し進行する歯周病です。単に歯ぐきが腫れているだけと思って放置すると歯の動揺が著しくなり、重症化すると歯が抜けてしまうこともあります。歯ぐきに少しでも違和感を感じたら、早めに歯科医院で診てもらいましょう。
思春期性歯肉炎の治療は何するの?
思春期性歯肉炎で、歯ぐきの腫れや出血、口臭などが気になるようになった場合、歯科医院では主にプラークコントロールを中心とした治療を行います。思春期性歯肉炎は、早めに適切な治療を受けていれば、ほとんどは改善します。
ブラッシング指導
歯磨きができていない場合は、磨き残しのあるところを染め出したり、デンタルフロスの適切な使い方など歯磨きがきちんとできるように指導します。
スケーリング(歯石除去)
スケーラーと呼ばれる器具を使用して、歯磨きでは取り除くことができない歯石(歯垢が石灰化したもの)や歯ブラシでは届きにくい汚れを取り除きます。
思春期性歯肉炎を予防するために
1.プラークコントロール
プラークコントロールとは、歯垢(プラーク)を取り除き、口内環境を正常に保つことを意味します。思春期性歯肉炎は、歯がきちんと磨けていても起こる可能性がありますが、プラークコントロールができていないと症状がさらに悪化していきます。少なくとも1日1回はきちんと歯を磨けているかを確認をして、歯磨き習慣を徹底しましょう。
プラークコントロールについて詳しくは、こちらをチェックしてみてください。
2.生活習慣の見直し
免疫力が弱まると体は細菌と戦う力がなくなり、体調を崩したり、病気にかかったりしやすくなります。歯周病のなりやすさにも「免疫」が深く関わっています。体の免疫システムが弱まるとお口の中の細菌のバランスが崩れはじめ、歯周病菌が優位になります。睡眠時間はきちんと確保し、疲れがたまりすぎないように注意してあげてください。また、お菓子やジュースなどを頻繁に摂取している場合は、食生活も見直す必要があります。
3.口呼吸を治す
唾液には歯周病菌を抑える働きがありますが、口呼吸による口の中の乾燥で唾液が減ってしまうと、歯周病菌が活発化して歯肉炎を招きやすくなってしまいます。口呼吸で乾燥しやすい前歯を中心に歯肉炎が起こり、外気が当たりやすい箇所の歯ぐきが赤く腫れる場合もあります。口呼吸は、歯並びも影響することもあるので、気になる場合は耳鼻咽喉科や歯科医院へ相談しましょう。
歯周病は思春期を過ぎても注意が必要です
歯周病は早産にも影響する
妊娠中に歯周病になると、早産で低体重児が生まれるリスクが7倍に上がるというデータがあります。また、妊娠性歯肉炎など歯茎が敏感で腫れやすくなります。産後は育児に手が掛かり、自分のお口のケアは疎かになりがちで、出産を機に歯周病になってしまうケースが多いので注意が必要です。
更年期の歯周病
女性ホルモンのうち、エストロゲンは骨密度の低下を防ぐ働きをしています。更年期を迎えると女性ホルモンが減ることから骨密度が低くなり、骨粗しょう症になりやすくなります。そのため、歯を支える顎の骨も弱くなり歯を支えている歯槽骨がもろくなっていきます。ほかにも、更年期に女性ホルモンのバランスが乱れてくると、唾液の分泌が減るため歯周病にかかりやすくなります。
まとめ
女性のお口の健康状態は、女性ホルモンのバランスに応じて変化します。思春期、妊娠・出産時、更年期などの歯周病にかかりやすい時期には、特に丁寧に歯磨きをするように心がけましょう。
もちろん女性だけでなく男性も歯周病のリスクはあるため、性別関係なく日頃からお口のケアは心がけましょう。毎日の正しい歯磨きや歯科医院での定期検診を受けて、歯周病からお口を守りましょう!
記事監修 Dr.多賀 俊仁
多賀歯科医院
院長 多賀 俊仁