虫歯というと歯の噛む面にできると思われる方も多いと思いますが、歯周病や加齢などで歯ぐきが下がり露出した歯の根元の部分にできる虫歯もあります。これを「根面う蝕(こんめんうしょく)」といいます。
歯の噛む面にできる虫歯と比べて、自覚症状が少なく、気付かないうちに進行しやすいため注意が必要です。虫歯が進行すると、最悪歯の根元から折れてしまうこともあります。
今回は、この歯の根元にできる「根面う蝕(こんめんうしょく)」についてお話しします。
目次
歯の根元にできる虫歯「根面う蝕(こんめんうしょく)」
加齢や歯周病により歯ぐきが下がり、丈夫なエナメル質に覆われていない歯根が露出します。この部分が虫歯になることを「根面う蝕(こんめんうしょく)」といいます。虫歯は、口の中にいる細菌が、糖分を餌にして作りだした酸によって歯が溶けた状態です。根面はエナメル質に覆われていないため、虫歯はすぐに象牙質に達してしまいます。象牙質は、身体の中で最も硬い組織であるエナメル質よりも軟らかく酸に弱いため、エナメル質が溶けないような酸性度でも溶けてしまいます。そのため、根面う蝕は虫歯になりやすく、かつ虫歯になってしまった場合の進行も早い傾向があります。
根面う蝕は厄介な虫歯
自覚症状を感じにくい
根面う蝕は、「しみる」「痛い」といった自覚症状はほとんどなく、歯の噛むところはキレイなままです。歯の根元の部分にできるため唇で隠れやすく、気づいた時にはかなり進行していたという事がよくあります。また、虫歯の場所によってはレントゲン撮影しても検出精度が低く発見が難しいこともあります。
治療が難しい
歯冠の虫歯の多くは外から中へ向かって縦に進行するのに対し、根面う蝕は歯と歯ぐきの境目に沿って横に進行して歯の周りをぐるりと取り巻きます。歯冠の虫歯に比べて虫歯部分を除去しにくく、詰め物をするのも非常に難しいです。また、根面にできた虫歯を取り除くために虫歯になっていない綺麗な歯質を削る場合があり、治療を受けた歯は脆くなりやすいです。
根面う蝕になりやすい人
根面う蝕になりやすい人は下記のような特徴が挙げられます。
歯周病が進行している
歯周病が進行すると、歯周組織に炎症が起こります。炎症によって歯ぐきや顎骨が溶かされるため、少しずつ歯グラグラと揺れやすくなり、歯茎が下がって歯根部分が露出します。露出した歯根のケアがきちんと行われていないと、根面う蝕のリスクが高くなります。
歯磨きの力が強い
虫歯や歯周病を予防するためには毎日の歯磨きが重要です。しかし、歯ぐきは想像以上にデリケートな組織のため、ゴシゴシと強い力でブラッシングすると、少しずつ歯ぐきが削られてしまい、歯根部分が露出して根面う蝕になりやすくなります。
歯ぎしり・食いしばりの癖がある
歯ぎしりや食いしばりは通常の噛む力よりも大きな負担が歯や歯ぐき、顎骨などの歯周組織にかかります。普段から歯ぎしりや食いしばりの癖がある場合は歯周組織にダメージが蓄積して歯茎や骨が破壊されるため、歯根部分が露出して根面う蝕のリスクが高くなります。
加齢
歳を取るにつれて筋肉などの組織と同じように歯茎や歯槽骨(歯を支える骨)も衰えていくため、歯茎が少しずつ下っていきます。加齢によって歯茎が下がり、歯根部分が露出することで根面う蝕になりやすくなります。根面う蝕は30代で発症が見られ、40代で急激に増加し、以降、加齢とともにリスクがより高まっていきます。40代で約20~30%、50代でほぼ30%、60代では約45~50%に発症が見られるという報告があります。
根面う蝕の予防方法
◉歯ぐきを下げない
根面う蝕では「歯ぐきを下げない」ことが一番の予防になります。そのために以下の点に気をつけましょう。
- 歯周病を予防する
- 歯ブラシだけでなくフロスや歯間ブラシを併用する
- 歯磨きの時に力を入れ過ぎて磨かない
歯ぐきが下がる主な原因となるのは「歯周病」です。歯ぐきの腫れや歯のぐらつきなどを感じる前から、歯科医院にメインテナンスに通って、定期的に歯周病の検査をしてもらいましょう。また、歯と歯の間の清掃が疎かだと、そこから歯周病になってしまいます。フロスや歯間ブラシを日常のケアに取り入れましょう。虫歯と同じように、根面う蝕の予防も歯磨きが基本ですが、歯を磨くときに力を入れ過ぎて磨いていると、かえって歯肉を傷め、歯肉が下がる原因となるため歯を磨くときの強さには注意しましょう。
◉フッ素を活用する
虫歯予防に効果的なフッ素を活用して歯を補修する力を強化しましょう。歯磨き剤と洗口液、両方使うとさらに予防効果がアップします。
- フッ素配合歯みがき剤
- フッ素洗口液
家庭でのフッ素配合の歯磨き剤(フッ化物濃度1400 ~ 1500ppm)を就寝前を含め1日2回使用しましょう。歯磨き後は、適切な濃度のフッ素をお口の中に長時間残すため、すすぎは最低限(なるべく1回)にしましょう。そして、フッ素配合歯みがき剤での歯磨き後に、さらにフッ素洗口液でうがいをすることで予防効果がアップします。寝ている間は、お口の中の細菌が増殖しやすいタイミングです。洗口液の使用は、就寝前の歯みがき後に行いましょう。
根面う蝕は定期検診で「早期発見」がカギ
根面う蝕の予防と進行抑制には、歯科定期健診が重要です。歯科検診を定期的に受診していれば虫歯ができていないか、進行していないかをチェックしたり、他のお口の病気も早期に発見できます。根面う蝕は、進行してしまうと最悪の場合「抜歯」が必要になりますが、早期発見することができれば歯を残せる確率も高まります。お口の異変を感じていなくても歯科医院で定期的(3ヶ月に1度程度が目安)にケアを行いましょう。
定期検診については、多賀歯科の定期検診って何をしているの?をご覧ください。
まとめ
根面う蝕は、露出した歯の根面(象牙質)にできる虫歯です。象牙質は、身体の中で最も硬い組織であるエナメル質よりも軟らかく酸に弱いため、虫歯のリスクが非常に高いです。また、「沈黙の虫歯」と呼ばれるほど自覚症状も乏しく、気づいた時には歯を残すことが難しくなってしまうこともあります。
根面う蝕の予防には「歯ぐきを下げない」「フッ素を活用する」ことが大切です。自覚症状がなくても健康な歯と歯ぐきを維持するために、日々のケアと定期的な歯科検診を怠らないようにしましょう。
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記事監修 Dr.多賀 俊仁
多賀歯科医院
院長 多賀 俊仁